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MIDNIGHT LIBRARY 作家インタビュー
002 吉岡里奈 Rina Yoshioka

吉岡里奈と出会ったのは、2015年6月、表参道のHBギャラリーで行われていた彼女の初個展「ナオミの世界」だった。表参道から外苑前辺りにはイラスト系のギャラリーが5軒ほどあって、いつも、その何処かへ訪れる際には近くのギャラリーを梯子している。それで、何処かのギャラリーで入手したDMに描かれた昭和テイストでパンチの効いたイラストにひどく惹かれて吉岡里奈の個展に訪れたのだった。そこで彼女と話しをしたら、奇しくも彼女は自分がコレクションしているレコードのジャケットをまとめた書籍「レコジャケ天国 for Girls」を持っていて、そして自分が携わっている西麻布のライヴ・ハウス「新世界」(2016年4月1日で閉店) で行なわれている湯山玲子さんのイヴェント「爆クラ!」関連のCDジャケット・イラストを描いていたこともあっり、そこから付き合いが始まったのだった。そこで、本ミッドナイト・ライブラリーの第二弾アーティストに起用した。
【取材/文:山口′Gucci′佳宏】

――いきなりだけど、出身が何処だっけ?

吉岡:神奈川県の川崎です。

――あっ、変わってないの?! 実家?

吉岡:はい、そうです。ずっと変わってないです。お恥ずかしながら実家です。実家を出たいと言う強い願望はあるんですけど…。そうするとフルで働かないとならなくなって絵を描く時間がなくなるので。

――いや~、作家は実家が一番だと思うんで、イイんじゃないのかな。皆んな、そうでしょ。よっぽど売れる様にならないと。

吉岡:絵だけで喰っていける様にならないと、と言う焦りはありますね。暮らしが子供の頃からあまり変わってないので、環境を変えたいと思いますね。

――家の中で描いてるの? アトリエとか?

吉岡:いや、全て家、自室で描いてます。アトリエは欲しいですね。自室が狭いので描く絵の大きさが限られてしまいます。A2版ぐらいが限界です。

――じゃあ、大きい絵も描きたいの?

吉岡:個展とかする時、大きな絵があると見栄えするし、凄く大きな絵を描いてみたい願望があります、映画の看板みたいなのが好きなので。

――なるほどね。となると何処かにスペースを借りたりしないとならないね。

吉岡:やっぱり、今後はアトリエは持ちたいと思ってます。

――絵を描き始めたキッカケとか経歴は?

吉岡:絵は、やっぱり物心付いた時、3歳ぐらいからずっと描いていました。でも一旦、美大の映像学科へ進学して絵を描くのではなく映像の方へ行ってしまい卒業して、絵は描かなくなってしまったんですけど、また何か描きたくなって30歳過ぎてから絵をちゃんと学ぼうと思いイラストの学校へ行くんです。やっぱり、絵は捨てられなかったなぁ、と言う感じで。

――じゃあ、30歳前、イラストの学校へ行く前は何をやっていたの?

吉岡:パティシエとかカレー屋さんとか食べ物関係の仕事で、もしこれから絵を描いて行くのなら大変な人生になるなぁ、と思って絵は一旦、捨てたんです。でも結局、戻って来てしまいました。

――でも、映像系の仕事をしようとは思わなかったの?

吉岡:いや、映像系は就職が難しくて、大学で卒業制作の映画を撮って燃え尽きてしまった、と言うか、これを仕事にするのはしんどいな、と思って。

――今でも、映像は好き?

吉岡:はい、昭和の絵を描いたりするのも、昔の映画を好きで観たり、そして昔の映画の看板絵とかが好きだからです。今の映画看板って写真じゃないですか。インド行った時に、インドでは未だ看板が絵なんですよ。

――それからイラストの学校を出て、その後は何をしていたの?

吉岡:結構、地道に描いていただけなんですが、イラストの先生にコンペに出してみろ、と言われて出したら、2013年、TIS (東京イラストレーター・ソサエティ) のコンペで入賞して、次の年には金賞を頂いたんです。それで、これはイケるかも、と思いました。

――イラストの学校って何処ですか?

吉岡:青山塾です。

――あー、皆んな行ってるよね。青山塾出身者は多いよね。

吉岡:そうですね。青山塾ってカラーがあるのですけど、私は全く異質で浮いてました。青山塾はやっぱり可愛い絵が多いですね。

――TISの公募で賞を獲ったってことは毎年やってる表参道のギャラリー5610での受賞者展に展示されたんだよね。もしかしたら観に行ったかも。でも、気が付くと終わってたりするんだよね。 (実際は行ってませんでした…。)

吉岡:そうです。展示されました。毎年、賞の発表が5月で、展示が10月ですね。

――じゃあ、その受賞きっかけでHBギャラリーで展示をしたの?

吉岡:いや、そうではないかもしれませんが、展示が終わってからHBギャラリーから誘って頂いたんです。私、自分では個展をやろうとか思わないので、人から言われて、あぁ、やるもんなんだ、と思いました。でも、HBギャラリーの展示で今、こんな付き合いが出来ているのでありがたいと思ってます。

――そうだね。そうやって自分は展示を観に行って、気に入った作家さんに声をかけているので。こっちもHBギャラリーきっかけだね。それで、絵を再び描き始めて最初はどんなものを描いてたの?

吉岡:最初はやっぱり自分の方向性が分からなくて、現代アートみたいな普通の人が観て訳分かんないね、で終ってしまう様な絵を描いてました。

――えっ、そうなんだ。結構、抽象的な感じ?!

吉岡:今っぽいのってこんなのだろう、みたいな感じで、横尾忠則さんが好きで、それをヘンに解釈したみたいな。目黒雅叙園で昭和のイヴェントみたいなのがあって、そのポスターを描いてくれ、と依頼されて、それで描いたら結構、自分の好きな世界とあってるなぁ、と思って、絵の先生に見せたらイイと言われて、こう言う方向で行こうと、そこで初めて自分の描きたいものと自分のタッチが一致しました。

――それで、こう言う昭和テイストで、しかも女性中心に描く様になったんだ。モチーフが結構、面白いし、いい意味でちょっとヘンな雰囲気にしてるのは何故?

吉岡:いや、意図的にこうしてやろう、と言うのはなくて、好きな写真とか、谷ナオミさんとか好きだな、と思って描いていたら出来てしまった、みたいな。何か頭に浮かんだ絵を出さないと、と思って感じで描いたものが、結果、こう言うものになったんです。

――この出来上がって来たZINEを見ると、モチーフの組み合わせがヘンでしょ?! それはどうして?

吉岡:自分では狙っている感覚はなくて、別に他愛もない動機で描いているんですけど。例えばトラック運転手の女の子がラーメンを食べていたらイイなって、寿司と鉄火場が浮かんで来たから描かなきゃ、みたいな発想で、あまり深く考えてないんですよね。ほぼ思い付きです。思い付きをもっと考えて練ったりしてクオリティが高かったら、コンセプチャルな絵になるのかもしれないですけど。ただ、思い付きで描いているので、絵の先生に見せると「ゲッ、何これ?!」って言われます。あまり理解されないです。

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MIDNIGHT LIBRARY 002 吉岡里奈「eat it」とポストカード

――ぶっちゃけて言うと商売にしようと考えるとなると、絵も上手いし、ディティールも凝っているけど、パッと全体を見た時に、仕事をこれを描いている人に頼まなくても、となると思うんだよね。

吉岡:最近、やっとそう言うことに気が付いて、一部の凄い好事家みたいな人には熱烈に支持してもらえる作家を目指すのか、ちゃんと仕事として成立させる為に、もうちょっと分かり易いものを描くのか、と。

――それで、どうしたいの?

吉岡:たまに運良くイラストのディレクション通りに描いてギャラはもらえるのですが、自分の絵じゃないな、と感じてしまって…。

――じゃあ、吉岡里奈的には描いたものを売りたいと。

吉岡:でも、それじゃあ、ホント食べて行くのが難しいと思うので、凄い悩んでます。

――描いたものを売りたいんであれば、売るためのやり方をすればいいと思うけど。

吉岡:そうですね。描いたものを売る、その方向かなぁ。仕事をいろいろしている自分の友達は自分の作品も仕事のイラストも同じテイストなんですよね。やっぱり、その方がクライアントも仕事を頼みやすいですよね。

――そりゃ、そうだ。でも、仕事として割り切って、そう言う絵を描けるかだと思うよ。仕事の絵と趣味の絵をちゃんと描き分けている人も沢山居て、その人たちは割り切った仕事の絵を描いて生計を立てているから、趣味の絵を描けるんだよ。それが出来るか出来ないか、出来ないのであれば、絵を売ることを考えてそれなりのことをすればいいんだと思うよ。

吉岡:それなりのことって?

――グループ展に出してみるとか?! ヘンな内輪感のないグループ展で、画廊企画であれば出品するのに金もかからないし、いろいろな人が観に来るから、たとえ他の人の作品を観に来た人にも気に入ってもらえるかもしれないよ。それで、今後、作家としての在り方!? どう言う絵を描いて、どう言う風にして行きたいのかな?

吉岡:今回、ZINEの表紙に使用している焼きそばパンの絵なんですけど、まだ先生に見せてなくて、見せたら評価として何て言われるか分かりませんが、頭に浮かんだことをそのまま描いた絵で、描いている時にとても楽しくて快感があったんです。それで、人の評価とか気にせず、一回しかない人生なんで、描きたくて描いて楽しければイイかな、と思ってます。描けること自体が、今、幸せなのかもしれません。だから、そう言う方向で、売り込みとか考えずに今は描く時間を確保して描きたいものを描くのに集中したいです。その後、結果として作品が売れるとか売れないとかはあると思いますが、自分の頭の中に浮かんでしまった絵を出したい、みたいな衝動に駆られてしまっていて、描けるだけ描きたい、と言う感じなんですけど。最近は絵の先生の評価が擬音ひと言、「エッ」とか「ゲッ」みたいな感嘆詞を言わせたら勝ちだと思ってます。「何これ」とかプロの人が技術ではなくて、見た目のイムパクトで驚くのが楽しいです。

――それで今回、ZINEと絵ハガキ5種を作ってみて、どうだった?

吉岡:とても感激だし、自分が描いたものが商品となって、誰かに届けられるのが凄く嬉しい。今まで自分でもZINEを作ってはいますが、自分の独りよがりで作ってしまった感じがして、今回、他の人の手が入ってアイディアを出してくれたお蔭で、もっと広がりが出たと思います。落款のアイディアだったり、タイポにしても自分では、あまり考えられないものを指定してもらったり。

――より商品的な意味合いが出たってことだね。イイ形に一緒に作れたってことだね。

吉岡:でも、売れるかどうかが心配ですけど…。

――それは、こっちの責任だから。作家さんに自由に作って下さい、って依頼しているのはコチラな訳で、出来てきたものを巧く販売したいと思うね。

吉岡:現代アートや写真、イラストとか、いろんな作家の方が参加しているシリーズの中に入っているというのも面白くて、刺激を受けると思います。それと実際にZINEとハガキが出来て、自分の絵を客観的に観られる様になり、改めて自分の絵が好きだな!! って感じました。あと、テーマを決めて描くと言うことが今後にとって結構いいとか、勉強になったし、いろいろ発見しました。自分は物怖じする性格なですが、こうして商品になったことで、いろいろな人に見てもらえて、そのリアクションも楽しいし、世界が広がりました。もっとガンガン行きたいとやる気が出ました!!

――ZINEの方はどんな感じで、この内容にしたの?

吉岡:先ず1頁目の、以前、カレーが好きでカレー愛を表現しようして描いたカレーの絵があって、それ描いている時、とても楽しくて、食べ物と本来、自分が好きな昭和の女性像を組み合わせて描いてみたら面白いんじゃないかな、と思ったんです。それでシリーズ化して描いてみました。

――カレーの絵はいつ描いたの?

吉岡: あれは2011年ぐらいだったかな?! あれだけ、前に描いたものです。

――じゃあ、あとは新作書き下ろしなんだね。

吉岡:そうです。他にもエビフライとかナポリタンとか、描きたいものがあるんですけど、今回、あまり時間が無くて描けなかったです。

――それで、描くのに何か苦労はあったのかな? どうしようとか。

吉岡:いや、描きたいテーマ、候補が沢山あるのに自分の手が追いつかなくて描ききれなかったのが悩みです。アイディアは結構、ポンポン浮かぶんです。それをメモっておいて、実際に描いたら、そのメモを消して行くんです。

――じゃあ、今もアイディアと言うかネタが沢山あるんだけど、描くのが物理的に追いついてないって言う状況なんだ。では、今後も食べ物シリーズは続いて行くんだね。

吉岡:そうですね。

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MIDNIGHT LIBRARY 002 吉岡里奈「eat it」、オマケの栞!
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吉岡里奈 初のZINE「女たちの夜」 (2015年11月刊)

――他に描いてみたいテーマ、シリーズはあるのかな?

吉岡:架空のレコード・ジャケット・シリーズ、妄想で考えてます。それこそ、グッチさんのお色気レコジャケ・コレクションに触発されました。

――あと、絵ハガキの方は、どうしてあの5枚の絵柄を選んだの?

吉岡:あれは前に自分で作ったZINE「女たちの夜」から選んだもの。今回のZINEが食べ物、食欲がテーマだったので、対してこっちはお色気、昭和の女性、性欲みたいな感じでチョイスしました。ZINEも含めてですけど、テーマを決めて描くと言うことが今後にとって結構いいとか、勉強になったし、いろいろ発見しました。

――ところで、今、よく聞いている音楽って何かな?

吉岡:”VIDEOTAPEMUSIC”、映像と音楽を一緒にやっていて、エキゾチック・ミュージックみたいな感じで、私の好きな昭和感もあり、聴きながら絵描いてます。映像は昔の映画をコラージュ (サムプリング) して作っていて、音楽と凄く合っているんです。あとは全然違うけど、日本の若手パンク・バンド、”どついたるねん”とかが好きです。それと、昭和歌謡も聴いてます。

――アートの方は? 今、好きなアーティストは居るかな?

吉岡:ロッキン・ジェリー・ビーンさん、男目線で描かれた女性・女体、自分が描けないエロじゃないですか。あと、齋藤芽生さん。緻密な画風と絵に込められたストーリー性と文章が面白くて好きです。小西真奈さん、マシュー・バーニーも好きです。

――そう言えば、スクーターズのニュー・シングルのジャケットに絵が起用されたじゃない、それはどうです?

吉岡:既に描いていた絵を巧いこと使って頂いてジャケットになっているので、とても良かったなぁ、と思います。今回はアートディレクターの信藤三雄さんに声をかけて頂いたんですが、先方が自分の絵の意図を汲んでくれて形になるのは凄く嬉しいです。前に言った様に、いろいろ決めごとがあって描いた絵は自分の絵ではない様な気がして…。

スクーターズ「泣きたい気持ち」(2016年4月6日リリース/7インチシングル盤)

――やっぱり、吉岡里奈はイラストレーターと言うより、画家肌なんだね!!

シリアスな進路相談 (?!) みたいな話もありのインタビューになってしまったが、そんな作家の話もなかなか聞くことが出来ないので興味深かった。かなりコテコテ感のある彼女、吉岡里奈の画風、きっと好き嫌いは分かれるのかもしれないけれど、ツボにはまったら最後、結構、中毒気味になると思う。まさに自分がそうである。皆さんも是非、怖いもの見たさででも、一度、吉岡里奈ワールドに足を踏み入れてみたらイイのでは!!


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・MIDNIGHT LIBRARY 002 吉岡里奈「eat it」
・吉岡里奈 絵ハガキ【5枚セット】


PROFILE
吉岡里奈 (ヨシオカリナ) イラストレーター
昭和のムードを好んで描いております。

1977 神奈川県生まれ / 川崎市在住
1999 多摩美術大学二部 (現・芸術学部) 芸術学科 映像コース 卒業

イラストレーション青山塾 ドローイング科 12期~14期修了

Official Site▷ http://rina-yoshioka.jimdo.com
tumblr▷ http://yoshiokarina.tumblr.com
Facebookページ▷ 吉岡里奈

【個展】
2015.6 初個展「ナオミの世界」HB Gallery

【グループ展】
2015.11「Here is ZINE tokyo 11」TOKYO CULTuART by BEAMS
2014.12「Graphic Art  exhibition クリエイティブ表現の現在」RECTO VERSO GALLERY
2014.10 第12回 TIS公募展受賞者展

【受賞歴】
2014 第12回 TIS公募 金賞・南伸坊/影山徹 審査員個人賞
2013 第11回 TIS公募 入選
2010 イラストレーション青山塾 2010年度修了展 優秀賞